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Soaveなひととき

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「第5回(最終回)」
都内の新たな名所としてオープンしたばかりの赤坂サカスに姿を見せた慶江は、周囲の華やかなムードを一層引き立てるような笑顔をみせていた。というのも、昨年やっと立ち上げた「ミモザの日」コンサートの第2回目のステージを無事終えたところだったから。ミモザの日とは、イタリアの習慣で毎年3月8日に、女性への感謝と敬愛の念を込めて男性がミモザの花をプレゼントする一大イベント。女性から愛のメッセージを添えて男性にチョコレートを贈るヴァレンタインデーの逆、のようなイメージだが、現地では自分の大切な人にはもちろん職場の仲間、友人、近所の人たちなどいつも触れ合っている女性に気軽にミモザを手渡す、そういう習慣なのだそうだ。
 ミラノに5年間住み、その習慣にいたく感激して、「日本にもぜひ紹介して広めたい」とずっと考えていたという。昨年は、イタリア文化会館で初めて「ミモザの日」コンサートと銘打って成功を収め、今年は3月2日(日)に紀尾井ホールで開催した。「昨年以上のキャパシティでしたし、必ず続けなければというプレッシャーがあって」と心境を明かしたが、フタを開ければほぼ満員の観客が集まった。
 「初恋」「千の風になって」など歌曲を披露した第1部では、ゲストの華道家・假屋崎省吾さんがピアノの演奏をバックに即興でミモザを活けるインスタレーションを披露。会場を、グッとゴージャスに演出してみせた。親交の深い2人だが、実は假屋崎さんはこの日、稽古日で、この時間に限って駆けつけてくれたのだった。第2部では、「オペラのヒロイン達」と題してアリアを次から次と繰り出した。昨年秋に初めて演じた「ロメオとジュリエット」の中から、「私は夢に生きたい」もあって、見逃した(聴き逃した)ファンにはうれしいプログラム。8人の友情出演もあって、ささやかながらオペラの醍醐味も味あわせてくれた。
 1曲ごとに大きな拍手に沸いたのは言うまでもないが、これまで以上の力強さと存在感が印象に残ったステージ。それは、長らく応援してきたファンの人たちが一番感じたのかもしれない。本人に率直に聞いてみると、やはりオペラ体験が大きかったという。「ロメオ」の後、今年2月には日本初演のワーグナー「妖精」にも挑戦。この2作を通じて、「いかに自分に力がついたかが分かった」というのだ。「自分の声に合った作品を通して、(歌い方に)緩急をつけることができるようになった。歌うことが楽になった」と明かした。「歌で遊べるようになった」とも表現した。ひとつのチャレンジから大きく動き出し、どうやら新たな道が拓けてきたようだ。「これからますますチャレンジしますよ」と表情はすこぶる明るい。その言葉通り、今年またオペラの舞台を見ることができるかもしれない。
 9月には、オーチャードホールで予定されている「ウエストサイドストーリー」のハイライトコンサートでマリアのナンバーを歌うことが決まった。11月には、日本フィルハーモニーの定期演奏会でヴェルディの「レクイエム」を歌う。「これが今年一番のチャレンジかも」と今から楽しみな様子。もちろん、頭の中には来年の「ミモザの日」コンサートの構想もある。「3月8日は日曜なの。もうやらなきゃって感じ」とすっかりその気である。
 実は、先日、假屋崎さんへのお礼というわけではないが、テレビ番組の収録で、豪邸とウワサの假屋崎さん宅で生歌を披露したそうだ。イタリアからやってきたお菓子の鬼才ロベルトさんをもてなすために借り出されたかっこうだが、ほとんどぶっつけだったというホームコンサートはちょっと興味深い。気になる方は、30日のTBS「世界ウルルン滞在記」(特別編)をご覧あれ。
 昨年ミラノから帰国して、いよいよ再スタートの2008年。“ソアーヴェなひととき”を少しでも多くの人たちに分けていただきたいものだ。
<了>※本連載は今回で最終回となります。
(本庄雅之)
「第4回」
11月22日、ちまたで「いい夫婦の日」として盛り上がっている頃、都内某所では、ある華やかなパーティーで賑わっていた。ほかでもない、我らがディーヴァ鈴木慶江を囲んでのひととき。新アルバムの完成やオペラ「ロメオとジュリエット」の成功、ミラノから東京への帰国などを含め「鈴木慶江さんの、あれこれを祝う会」と題して、ゆかりの人たち約200人が駆けつけた。  
会場は、新宿区内にある小笠原伯爵邸。1927年に建築された小笠原長幹伯爵邸が、しっかりメンテナンスされて蘇ったレストランだ。グルメ通の間ではよく知られた名所であり、一度は訪れたいと思われるあこがれの店。実は、今回のアルバム「ソアーヴェ」のジャケット撮影でも使われたのだが、写真を見ただけではまさか都内とは思えない異国情緒が訪れた者の心を躍らせる。  
午後7時半からのオープニングにはすでに多くの人たちが集まり、外の冷気を感じさせない熱気が漂っていた。ひときわ華やかなドレス姿で登場した歌姫は、そこだけスポットライトが当たっているかのように輝いている。乾杯と同時に、「乾杯の歌」の生歌にそれぞれのグラスが高々と掲げられ、会は一気に盛り上がった。  
今年5月に鈴木慶江嬢がシャンパーニュから騎士称号を受賞したこともあって、この夜は10種類のシャンパンがゲストのノドを潤した。そして、スペイン料理の特長でもあるピンチョスの数々。中でも、脂の乗ったイベリコ豚には誰もが顔をほころばせた。ちょうど話題のミシュラン東京版の内容が発表されたばかりで、一つ星に輝いた伯爵邸の渡辺美智子総支配人に、鈴木慶江から花束が贈られる一幕も。
  パテオ(中庭)を囲んだいくつかの部屋ごとに、談笑の輪が広がり、会場はさながら大使館のパーティーのよう。かと言って堅苦しくもなく、初対面の人が気軽に会話できるようななごやかさで包まれた。ディーヴァは何度かのお色直しで目でも楽しませてくれた。何と言っても最高のごちそうは、歌の数々。エンリコ・モリコーネ「ネッラ・ファンタジーア」、デ・クルティス「忘れな草」、プッチーニ「誰も寝てはならぬ」、フランツ・レハール「唇は語らずとも」をステージとは比べものにならない間近で、しかもアルコールを手にしながら味わうことができたのだから、これをぜいたくと言わずして何と言おう。途中、ピアニストの横山幸雄が伴奏したり、六本木男声合唱団がコーラスを務めたり、というサプライズもあった。  
「皆さんの喜んでいらっしゃるお顔を見て、私も楽しく元気をもらいました。心から歌いたいという気持ちで歌わせていただきました。また、こんな会を開くことができたらいいな、と思います」。そんな挨拶に満場の拍手が応えた。疲れも見せずに、主役はCDのサイン会も最後まで丁寧に勤め上げ、予定時間を大幅にオーバーして、メモリアルナイトの夜がふけた。
(本庄雅之)
「第3回」
アルバムリリースと時期をほぼ同じくして出演したオペラ「ロメオとジュリエット」(9月21日、めぐろパーシモンホール)は、5年前にCDデビュー以来初めての舞台。それまでオファーがなかったわけでは、もちろん、ない。ノドという最もデリケートな楽器の難しさを知っているからこそ、作品や役柄に慎重に接してきたら時間が過ぎてしまっていたということらしい。今回は、本来のチャレンジスピリットが頭をもたげ、「トライしてみよう」と思い立った。  結果は、アンコールの盛大な拍手、「ブラボー!」の声が何よりの証明となった。「まさか、ここまで合う役だったとは。これは神様からのプレゼント」。リハーサルを繰り返しながら、そんな思いにとらわれるほど、今現在の自分を表現するのに最適な作品、役であることをひしひしと感じたという。実は、学生時代にこのグノーの作品を観客として見たことがあり、長くて退屈した記憶があったそうだ。それだけに、役作りには神経を注いだ。  「ジュリエットは14歳ですけど、大事なのは年齢じゃなく、強い意志を持った女性であること。実は14歳なんだよと聞かされて驚くのであって、年齢を追求するわけじゃないんです」。実に最もである。そして、こう続けた。「恋は瞳から入ってくるのよ、と乳母から聞いて、ロメオを見た瞬間、あ、この人だと分かったわけですよ。その思いを知って、信じた。それがすべて。毒を飲んで死んじゃうのも、そうなって当然という気持ちを持っているのがジュリエット」。熱く語る姿は、まさにジュリエットだ。自身のプライベートとも重ねて、「人を好きになる中で感じることを、役に反映できたと思う。数年前だったら分からなかった。恋をするということは、人の気持ちが分かる感性を高めていく勉強だと思うんです」。  ともすれば臆病に陥りがちな環境から脱しようと試みたオペラ出演は、公演の成功だけでなく、さまざまな可能性の発見にもつながった。多くの人が物語を知っているこの作品を、より多くの都市で、例えば子供たちのオペラ初体験として鑑賞してもらえたら。1度で終らず、持続させる方法はないものか。仲間との模索が宿題として残った。十分な手ごたえをつかんだ次の舞台が、大いに楽しみになってきた。
(本庄雅之)
「第2回」
 新アルバム「ソアーヴェ」のレコーディングにまつわるエピソードを語ってもらった。まずは1曲目の「誰も寝てはならぬ」。先ごろ亡くなった“ミスターハイC”ことパヴァロッティの代表曲としても知られるオペラアリアの名曲に、シンプルでジャジーなピアノから入るという驚き。これは、ジャズピアニスト・編曲家として活躍中の島健のアイディア(もちろんピアノで参加)で、「スーッと染みこんできた感じで、自然だった」という。アレンジしたオーケストラに声をのせ、「パーカッションも必要だね」。そんなやりとりもいくつかあり、最終的に壮大なスケール感あふれる見事な鈴木慶江版が完成した。三枝成章氏らが名を連ねる六本木男声合唱団のメンバーが、いつの間にか“増殖”、結局60人近くが応援団よろしく楽しみながら参加して、「ありがたかった。かなり気持ちよく歌えました」と振り返った。  この曲に限らず、制作過程のツボがあるのだという。「(レコーディングを)やっていくうちに、(曲に)いろんな衣装を着けたり、化粧を変えてみたりする。そこが私のアルバムの特長かな。なんでそういうことをするのかと言えば、聴いてくださる方に『いいね』と言っていただきたい。単純にほめてもらいたいんです」。具体的には、どういうことか。選曲、アレンジ、オケ録り、ヴォーカル入れという大まかな流れに沿って行われるのが一般的だが、決め事にとらわれず、その瞬間に「これだ」と感じるものがあれば、どんどん新しい音、アレンジに変えてゆく姿勢と実行力が顕著なのだ。その現場は、むしろジャズやロックミュージシャンのレコーディングに近く、クラシックの世界ではまずないやり方。自分だけでなく、アルバムに関わるすべての人の息遣いや「今」を閉じ込めたいというスピリットにあふれていると言うことができるだろう。  ビオラとハープだけで歌った「忘れな草」は、そのいい例かもしれない。実は体調が優れない時期のレコーディングだったのだが、それでも細部に神経をとがらせ、むしろいつも以上に丁寧に歌い上げる懸命のヴォーカルに呼応するかのように、弦の2人が「ワクワクドキドキするような演奏」を繰り広げ、最高のテイクに仕上がった。  「デモテープと本番の音が一番変わった」とスタッフが明かしたのは、「ユー・レイズ・ミー・アップ」だ。イタリア滞在中、どこからか聞こえてくると口ずさむほどのお気に入りで、「これ入れたーい」と言って決まった曲。とはいうもののオペラチックで行くか、ポップス寄りにするのか、意見は分かれたが、本人の希望通りオペラ風で決定。新進の編曲家・村松崇継氏にアレンジを依頼したところ、彼自身が大の慶江ファンでこの曲を手がけてみたかったということが判明。しかも、スタジオから徒歩7分のところに住んでいるという「プチ奇跡」もあって、音作りは快調に進んだという。が、好きな曲であっても「作品として残せるかは別問題」で、一時は「焦っちゃった」とか。音程なども難しく、一筋縄ではいかなかったが、出来栄えはお聴きの通り。「自分でも気づかないうちに“歌力”がついてたんだなぁ」としみじみ語るのだった。
(本庄雅之)
「第1回」
女神のような神々しさと奥ゆかしさをたたえたジャケット、と言ったら褒めすぎだろうか。約3年ぶりのオリジナルアルバムが、やっと完成した。イタリア語のタイトルには、「甘美な、柔和な、優美な、心地よい…」といった意味が込められているのだという。それは聴き手が、まさしくこの人に求めているものといっていい。「私がシャンパンが好きで、プロデューサーがワイン大好き。味なんかを表現する言葉をいろいろお話してたら、白ワインのおいしさを表す言葉で、“ソワベ”というのがあるね、ということになって、音楽にも合うんじゃないか、と」といきさつを話してくれた。  時間をかけたワインのように、心も満たしてくれる11の歌たち。「今歌いたい好きな曲」ばかりを並べたという。一瞬アルバムを間違えたのか、とも思わせるジャズ・テイストのピアノ・トリオから始まる1曲目「誰も寝てはならぬ〜歌劇『トゥーランドット』より」が、意表を突いて心を躍らせる。映画「オペラ座の怪人」を見た時に、「かっこいい」と思ったというヒロインに成り切った「Overture〜私を思い出して〜『オペラ座の怪人』より」は、慶江クリスティーヌが目に浮かぶようだ。最近、ステージでも披露するようになった「すみれの花咲く頃」は、宝塚ソングとして知られるが、日本語の詞の素晴らしさとシャンソンの妙、そして何より花を愛でる歌い手の匂い立つような華やかさが伝わってくる。  「フィオーレ」での鮮烈なCDデビューから5年。実は、4作目となる今回のオリジナルアルバムには、「再デビューぐらいの気持ち」で臨んだのだという。「腹をくくってやった感じ」という勇ましい言葉も、口をついて出た。つまり、タイトルの意味とは対象的な並々ならない強い気持ちと情熱が秘められていたことになる。  オペラ歌手として研鑚を積んだミラノから、東京に拠点を移したことも大きな転機になったようだ。「ミモザの日」コンサートなど、新しい活動にもチャレンジして、留まることを知らない。9月21日には、東京・めぐろパーシモンホールで上演されたオペラ「ロメオとジュリエット」で、CDデビュー後、初めてオペラの舞台に立った。登場するだけで舞台が明るくなる屈託のないジュリエットは、高音を駆使した聴かせどころ、ロメオ(羽山晃生)との甘い二重唱と目と耳で観客を堪能させた。新しい旅立ち。ソアーヴェなひとときの扉が、今、開かれた。 
(本庄雅之)