
(聞き手:高野麻衣)
――音楽と絵画、そして声の奇跡的なコラボレーションとなった『クラシックドラマCD「くるみ割り人形」』ですが、どのような思いで挑まれましたか?
石田 ドラマCDはこれまでも僕の仕事のなかに数多くあるものでしたが、実は、音楽というジャンルからのアプローチは、まったくなかったんですね。同じ耳で聴くものなのに、です。初の試みであり、しかもあの、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」が題材である。クラシックといえば音楽の古典ですから、三島由紀夫や太宰治の文学作品を演じるのに近い印象も受けました。僕がやってもいいのか、という戸惑いと同時に「やった!」という喜びが大きかったです。
釘宮 私は、お話を伺ったときにまず「くるみ割り人形、昔おうちにあったなあ」という懐かしさがこみ上げました。実際お人形で、くるみを割って遊んだりしていたんですよ。もちろん音楽も聴いていましたし、大人になってからもマシュー・ボーンのバレエを観たりと、大好きな作品です。また、女性ひとり男性ひとりですべての登場人物を演じ分けるというのも、これまでやったことのない試みで興味を引かれました。お相手が尊敬する石田さんということで「ついていきます!」と背中を押された部分もありますね(笑)。私はいつも、子どもからお年寄りまで万人に愛される役者でありたいと願っているので、この作品が、普段気にかけているちびっ子たちにも届くようなものになればと考えました。
――有名な音楽、そして原作に忠実な台本でした。実際に接したときの印象はいかがでしたか?
石田 僕がはじめて「くるみ割り人形」を聴いたのは、まさに小学校の音楽の時間なんです。レクチャーを受け、はじめて向き合って聴いたクラシックだったので、感動しました。家に帰って親にねだりはじめて買ってもらったLPが、この「くるみ割り人形」でした。
釘宮 ええ!本当ですか?アイドルとかじゃなくて?
石田 本当です(笑)。だから本当に思い出深い。音楽の授業の翌週に、先生が「あの曲、覚えてる人!」って挙手させたんですね。僕は覚えている自信がありました。レコードをねだったくらいだし、実は大好きだった『ホントにホント!?』(NHK)というクイズ番組のOPに行進曲が使われていたのもあって、タンタララランタンランタンターンでしょ?と。ところが、当てられたとたん頭が真っ白。答えられない上、「なんだよあいつ、いい子ぶりやがって」という空気が教室中に流れたのは屈辱的でしたね。この場でようやく、嫌疑を晴らせます(笑)。とまあ、そんなことがあったのに物語の中身はすっかり忘れていたのが、音楽や脚本からいろいろよみがえってきました。
釘宮 私は、うーん、脚本を見て「いよいよ現実になったぞ」と緊張しました(笑)。こんなに(4役)演じ分けられるだろうか。でも石田さん(9役)のほうが尋常じゃない。これはがんばらなければ、と気合が入りましたね。あと、今回の脚本、ラストがいい形で原作から発展しているじゃないですか。余韻もあって、すごく素敵!
――乙女心をぎゅっとつかまれますよね。
釘宮 そうなんですよ!元々の、目が覚めたらクリスマスの朝でした、というラストもいいんですけれど、さらに素敵な雰囲気で終わっています。あと、私もやっぱり小学校時代、掃除の音楽として「くるみ割り人形」の「花のワルツ」を5年間聴き続けていたことに、今回気づきました(笑)。もう、曲を聴くと掃除をしたくなります。
――おふたりとも思い出がいっぱいのご様子。
石田 今の子どもたちだと、携帯電話のCMなどになるんでしょうけれど、本当に身近な名曲ですよね。だからこそちゃんと知ってほしい。僕は普段、クラシックはハードルが高いと思ってしまっている側の人間なのですが、それでも、音楽が表現するドラマを感じることで新しい扉を開けるんだと。またNHKの話になりますが僕が中学生の頃、ブラームスの弦楽六重奏を使った音楽物語、ほんの5分くらいの小さな番組があったのを思い出しました。嵐の中、女の子が窓辺にたたずんでいる。窓ガラスには雨が激しくたたきつけて、雫がこぼれる。語りはなく、音楽と映像だけです。これがすごく印象的でした。
釘宮 わたしはたぶん、そういう音楽物語の新しいバージョン(『音楽ファンタジーゆめ』)を見ていました。CGでしたが、やっぱり音楽からイメージする物語を描いたアニメーションがついていて。
石田 多感な時期だったので、逆にそのシンプルな構成がささりました。ああいうのは、途切れずに続いてほしいな。
――EMIミュージック・ジャパンが事前に行ったアンケートでも、今回の作品、特に4,5歳の子どもたちの反応はヴィヴィットで感動しました。ドラマは集中して聴き、音楽が始まると踊りだすといったような場面が見られたそうです。あるいは、主人公クララに感情移入して、「クララ!クララ!」と声援を送ったり。
釘宮 うわあ、嬉しいなあ!完成盤を聴いて強く思ったのですが、ドラマと音楽が交互に現れることで、ものすごくイメージが広がるんですよね。何も知らないで聴いていると、いい曲だなあというぼんやりした印象でしかなかったものが、たとえば「にぎやかな市場」と言われると、「あ、あれは話し声かも。だれかが叫んだのかな」などと想像できるんです。不安な曲なら「クララが暗い森を走っているんじゃないかしら」、楽しい曲だったら「どんなドレスを着ているのか、描いてみよう」とか、子どもたちのイメージを膨らませていくのも楽しそうですよね。
石田 いいお母さんだねえ(笑)。
釘宮 だって、本当に豊かで、イメージさせるような音楽がつまっていると思うんです。
石田 厳選された言葉、たとえば曲のタイトルからもイメージしやすいよね。こんぺいとうの踊り、とか。そういう音楽は心にすっと入ってきますよね。
――音楽との共演ということで、演じ方に違いはありましたか?
石田 普通のドラマCDでは、完成時どのような音楽が付随するかはわかりません。効果音はある程度イメージしても、音楽を共演者として考えたことはなかった。だから今回はドラマのはね方であったり、全体的なイメージを音楽にそろえるように非常に意識しました。僕の場合、ナレーションで音楽を誘導するような場面も何箇所かありまして、そこは特にですね。
釘宮 私は演じるとき、オーケストラの人々がずらりと並んでいて、少し離れたところに私と石田さんがいるという情景を思い浮かべていました。演奏は世界レベル。やっぱり上質なものを届けられるのは嬉しいんです。ドラマCDって実は、昨今流行の日常っぽい感じにくずしてやろうと思えば、いくらでもくずせます。でも今回は、作品の質から世界観すべてがクラシカルなものなので、きっちり硬めにやりたいという思いが強くなりました。クララという女の子自体、厳格な家庭で窮屈な思いをしている。そこをちゃんと表現したかった。それこそ小さい子からお年寄りまでにきちんと伝わる芝居、を心がけました。
――鈴木康士さんによる美しい絵本も話題です。
釘宮 私はもう、ツボなんです(笑)。絶対、若い女性に響きますよね。絵本単体としても完成している。鈴木さんが想像の羽を広げて自由に描かれていて、音楽やドラマとまさに「コラボ」しているという印象が強いです。おしゃれで叙情的な鈴木さんの装丁だからこそ、友だちみんなにプレゼントしたいと考えています。
――クリスマスイヴにはイベントも控えています。実はラストにイベントだけの仕掛けもあるとか。
釘宮 うわあ、本当ですか!楽しみ!
石田 皆さんの楽しもうとしている空気に負けないよう、役を作っていきたいですね。子どもたちの反応も楽しみです。子どもは正直なので、怖いですけれどね(笑)。
釘宮 怖いといえば怖いですが、本当に素敵なクリスマスになればいいな。皆さんと一緒に楽しめるくらい、がんばって準備します。