EMI ROCKS The Firstシリーズインタビュー

EMI ROCKS “The First” シリーズ インタビュー

加茂啓太郎(EMI MUSIC JAPAN/ Great Huntingプロデューサー)

EMIならではの濃密な歴史と作品群を一気に堪能!

加茂(以下K)「今回の企画のメインとも言えるジュン上久保って、僕は知らなくて。諸々の文献のなかではまったく出てこないですよね?」

----僕も知りませんでした。2002年に海賊盤アナログとして出てからですね。遡っても資料的なものもありませんでしたし。

K「今年(11年)の頭に、いつものようにレコード店をチェックしていたらジュン上久保があって、当然オリジナル盤ではなかったんですが、エキスプレス(EMIのレーベルのひとつ)の帯がついていて〈何だろうこれ〉って。そこからずっと気になっていたんですが、その後に今回のファースト・アルバムを復刻する企画が持ち上がって、それならばジュン上久保だろうと。これが出せただけでも僕は良かったです。」

----しかし、このファースト・アルバムばかり出す企画(一部移籍第1弾も含む)は面白いですよね。

K「ファーストって、例えばバンドなら結成してからそれまでのキャリアが詰まっているから。」

----ファーストにしてラスト。1枚しか残していないアーティストもいますし。

K「ジュン上久保もそうだし、パワーハウスや串田アキラとかね。系統的にあまり語られなかったバンドがラインナップに入っているのも、面白いんじゃないですか。」

----アマテラスなんてそんな感じですよね。

K「これも高校生のころからずーっと気になっていて(笑)。あるときに中古盤に出会って、これは一期一会だから多少高くても買うしかないと。他にもイーストとかクロニクルといったバンドたちも出ますが、何故か歴史的文脈のなかでは語られない存在が多いんです。」

----そういう意味では逆に復刻が待たれていたタイトルが多いとも言えますね。

K「なるほど。僕がディレクターだった80年代後半に、過去のカタログを全部CDにしたいと思って、そのときパワーハウスとかウォッカ・コリンズを初CD化しましたが(『極東ロック・コレクション』)、その後きちんとは復刻されていないですからね。そのCDも高値がついているものもあるし。ただ、あのときはマスタリングの技術が未発達な時代のもので、ただデジタル・トランスファーしたようなものでした。そういう意味では、今やCDというメディアも完成した現在、今回のリマスター再発(Core Line)というのは、究極のラスト再発と言えるかもしれませんね。」

----今回、無理してでも買っておかないと(笑)。

K「それと僕がディレクターとして関わっている作品もいくつかあるので(笑)。例えばウィラードは自分が初めて契約したいと思ったアーティストでした。彼らは今でも活動を続けているのがえらいですね。」

----そうですね。ところでこの企画は60年代末から90年代まで揃っています。

K「こういう切り口ならではですよ。それと廃盤になっている作品が多いので、世のなかから消えていったかもしれない作品を、この企画でまた蘇らせるという点にも意義があるんじゃないでしょうか。」

----同感です。このなかでイーストやブラウン・ライスなんかはアメリカでもレコード出ています。

K「そうそう。それも何でなんだろうという(笑)。「上を向いて歩こう」以来のDNAがあるのか……。でも無茶な話ですよね。あんなことよくやったよなって思います。」

----次は串田アキラさんですが。

K「今回の目玉のひとつです。アニメ・ファン(現在はアニメ・ソング歌手としても有名)にも売れるかもしれませんしね。生きかた次第では、ロックの世界にもきていただろうという存在ですよね。」

----こういう音楽を再評価すべき時なのかもしれませんよね。

K「そうですね。当時は洋楽の影響が強い時代だったけれど、情報が少ないから影響の受け方が変になっちゃうときがあるんですよね。そこの"歪み"というか"ほつれ"が面白いです。そういう意味では、ジャックスのファーストなんかも"ほつれ"の面白さですよ。」

----そうですね。ジャックスは結果的に特殊ですよね。

K「もしまだジャックスを聴いたことがなくて、日本のロックが好きな人だったら今回の紙ジャケで絶対買っておいた方が良いですね。一生モノですから。日本人が外国のロック・ファンに、これは凄いだろうと聴かせられるアルバムって、ジャックスのファーストとゆらゆら帝国の『空洞です』だと思うんです。それって2枚ともサイケじゃないですか?でもこの日本に何故サイケの名盤があるんだろうっていう(笑)。実は日本人はサイケが得意なんじゃないかって。」

----個人的にも思い入れのあるものなのですが、ウォッカ・コリンズなんていかがですか?

K「ああ、必聴です。でもアラン・メリルは何で日本にいたんだろう?今でこそ日本に住んで音楽やっている外国人とかとても増えているけれど、当時としてはあり得ないくらいのことだったでしょうね。」

----このアルバムが完成する前にアランはイギリスに行っちゃうんですよ。それにしてもこのアルバムも"いびつ"で面白いです。

K「エンジニアの技術もない時代ですからね。でも73年の発売というとT.レックスのブレイクと同じくらいですかね?」

----ほかには、99年発表のナンバーガールもラインナップに入っています。

K「もう12年も前なんだっていう。レコーディングの現場にいたことをつい昨日のように思い出しますが、5日間でつくっちゃいましたから。その余った予算で、NYのデイヴ・フリッドマンのところに行こうって(笑)。」

----小原 礼さんや加部正義さんも80年代半ばにソロを出しています。

K「小原さんのこの作品をきっかけに、(サディスティック・)ミカ・バンドが再結成されたりという流れがあったと思います。今聴くとニューウェイヴですね。」

----加部さんのアルバムには(忌野)清志郎さんが参加してらっしゃいますね。

K「そうですね。本当はシングルで清志郎とジョニー、ルイス&チャーが一緒にやっているのが1枚だけあるんですけど。」

----アニメの『県立地球防衛軍』のテーマ(「S.F. / かくれんぼ」)ですね。

K「あとパワーハウスは今も横浜で活動されているんですか?クレイジー・ケン・バンドとも関係ありますよね?」

----はい。ヴォーカルのCHIBOWさんは、SKA-9というバンドで現役です。スカをやっていますよ。横山 剣さんは彼をリスペクトしています。

K「へぇー。去年公開された映画『ノルウェイの森』にレコード屋のシーンがあって、細野晴臣さんが店長役で出演されていたのですが、そこの店にパワーハウスのジャケットが飾られているんですよ。これはなかなか気の利いたことをやるなぁと思いました。69年の設定なんですけどね。」

----そうでしたか。今やCHIBOWさんは、パワーハウスのギタリストの陳 信輝さんと横浜でライヴハウスの共同経営もされているみたいです。

K「69年ですから、いわゆるニューロックの先駆けですよね。今回パワーハウス(ジュン上久保、D.M.B.Q.)は、ゆらゆら帝国などを手がけている中村宗一郎さんにマスタリングをお願いしたんです。」

----それは良い組み合わせかもしれませんね。彼らはビートルズの曲(「オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ」)を長尺で演奏しています。

K「ビートルズ・カヴァーとしては新解釈という感じで。何故あの曲か?というのもありますが、そこはセンスがありますよね。」

----加部さんの作品も独特の良さがあります。

K「ところでEMIのアーティストって売れた売れないよりも"時代を変えた"アーティストが多いなって気がするんです。例えばユーミン(松任谷由実)の登場前後では違うし、BOφWYとかもそうだし。ナンバーガールの前後でもまた違うし。それが出てくる、出てこないで前後の景色が変わる。でも、こうして聴いてみると当時の人には、そのメンタリティがあったと思うんです。ジュン上久保にしても当時としては圧倒的に新しいし、誰よりも早く(すべての楽器をひとりで演奏)やっていたという存在ですから。だから、時代を変えた人と挑戦したけどできなかった人とがいるけれど、そこにも音楽的価値があるっていう。何かちょっとしたタイミングが合わなくて、幻の名盤になっちゃたけれど、その価値は今でも変わらずにあるものだと思うんです。」

----そういった再発見ができるのも今回のシリーズの魅力です。

K「やっぱり、最初にやった人が残るんですよね。レッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)のあとにミクスチャー・ロックがいっぱい出てきたこともそうだし、クラフトワークもそうかもしれないけれど、何か発明をした人が残るんですよ。」

----まさしくそうですね。しかし本当にこの企画はバラエティに富んでいて、70~80年代に一世を風靡したアリスや甲斐バンドからD.M.B.Q.までが揃っているんですね。

K「あとはザバダックとかね。ガラパゴズなんかも今聴くと良いかもしれない。D.M.B.Q.とジュン上久保は併せて聴いてもらいたいな。あとは、クロニクルは何故デビュー盤をハリウッドでライヴ・レコーディングしたんだろうとかね。ファー・イースト・ファミリー・バンドなどの流れもあったからなんだろうけど。音楽的な実験を行なっていたランチャーズやハプニングス・フォーも面白いし。」

----あとブラウン・ライスなんかは、ポール・マッカートニーにプレゼントされた楽曲が収録されていますから。今回、ビートルズ・マニアは必ず買わなくてはならない作品ですね(笑)。

K「あとはやっぱりジャックスですかね。早川義夫さんは現役ですし。」

----それにしても今回の企画はジャンル的にも多彩ですし、年代的にも幅広いです。それを一緒くたに聴いてこそ面白みがより理解できますから、多くの方に手にしてもらいたいところです。さらに隠れた名盤を発掘する意味でも3期までと言わずにもっと続けてください。

K「あとは"The Second"ですね(笑)。さらに"The Third"とかね(笑)。」

取材:山田順一

加茂啓太郎・・・邦楽ロックを中心に、これまで多くのアーティストの制作、発掘、育成に携わる。著書に「ミュージシャンになる方法」(青弓社)がある。