
New Album『corridor』ライナーノーツ
「私たちくらいの年代になると、日常の中に、それほど特別なことではなくても、ほんのちょっと自分を取り戻せる時間や空間があるということが、ものすごく大きな憩いになる。そう考えると、最初から強いエネルギーで誰かを支えるような歌とは役割りの違う、それを聴いている数分間だけでもかろやかな気持ちになれるという役割りの歌も必要なんじゃないかと思ったの」
今井美樹は、3年ぶりの新作『corridor』について語り始める。
収録曲は、「宝物」や「ひとひら」など発売されて間もないシングル曲、「祈り」「足跡」「滴」などこの3年間に発表された楽曲、さらに、20年以上前のアルバム『Bewith』から新たにレコーディングして収録した「初恋のように」も含め、全部で11曲。
「たとえば『宝物』のような、母性が溢れる大きな歌もいい。でも、『Ordinary Magic』や『オン・ザ・プラネット』のように、日常の中の自分にふとフォーカスした、そんな歌もいい。46歳のシンガーとして、歌詞の世界にしても、サウンドのタイプにしても、さまざまな歌をうたいたいなぁと。大人になって、喜びも辛さも知ったからこそ、つい鼻歌をうたってしまうような、そんな気分の歌だってあってもいい」
前作からの“3年間”を“1枚”に収めることに、ことのほか苦心したとも言う。そのときどきに正直に作品と向き合ってきた彼女の “自然な3年間の変化”が、それぞれの曲が持つ色合いや、濃淡、その描き方の違いとなって表れているからだ。
「その“時差”を埋めていくことが、このアルバムを作る上での、最大のテーマだったかもしれない。自分の中で当たり前に変化してきた折々の“思い”を、ひとつひとつ縫い上げて1枚にしていくような、刺し子のような苦労があった(笑)。でも、苦労はしましたが、それを完成させた今、とても充実感を感じているんです。どんなに“時差”があっても、どの曲との出会いも必然で、この作品にはそれら全てが必要だったから」
今井美樹は、タイトルを『corridor』と名づけた。それぞれに異なる個性を放つ楽曲たちを“絵”に見立て、美術館に1曲1曲を飾るような気分で、“回廊”とくくったのだ。
美術館を飾る絵には、どの絵にも飾られるだけの品格があり、理由もある。目にする印象は違っても、どれも味わいのある“名画”なのだ。
アルバムを聴くと、いろいろなモチーフを持って並んだ歌たちが、それぞれの役割と意味を担って、自然に耳に届いてくる。そして、その歌を聴きながら、大事なことに気づかされたり、同じ思いに共感したりする。あるいは、キュンと胸が高鳴ったり、ホッと心が癒されたりするのだ。
「私も含めて相応の年齢を重ね、誰もがさまざまに変化してきている。そういう世代の人たちが一生懸命に過ごす日常の中で、ふと“音楽を聴きたい”と思ったときに手にしてもらえる1枚。そんな人たちにとって、なにげないけど大切なアルバムになってほしい」
もちろん、今井美樹と同世代の人たちに聴き手を限定するようなアルバムではない。
いろんな“日常”、さまざまな“思い”が、多彩な輝きを持って心地よく届いてくるこの作品は、どの世代の人たちにとっても“素晴らしい音楽”だ。
しかし、とりわけ、それほど変わりばえのしない日常を、必死に淡々と暮らしている私たちにとっては、心にふと潤いをもたらしてくれる“大切なアルバム”となるだろう。
(文・藤本真)
