昨年(2008年)行われたコンサートツアーの、NHKホールでのライブを完全収録した今井美樹のDVDが完成した。
彼女の言葉を借りれば、“奇蹟のように集まった家族たち”――新しいバンドメンバーといっしょに素晴らしい演奏を繰り広げたツアー。
シンガーとして20年以上のキャリアを持つ今井美樹が、最終的にセレクションした楽曲には、おのずと“20年”という時代の奥行きが備わっていた(1988年発表曲〜2008年発表曲まで)。それらが、時を越え、“たのもしいミュージシャンたち”が奏でるサウンドと共に、しっかりと“今”のときめきをたずさえて届いてきた。
「このツアーの目的のひとつは、『愛の詩』と『祈り』を、あの大河のような曲の空気感を、そのまま伝えられる大きさのホールでうたいたい、ということでもあったんです。私にとっての“王道”をしっかりとやりたいと思った」
ツアー終了後、彼女はこのツアーに対する意欲の一部を、そんな表現で語っていた。
NHKホールでは、彼女が口にした2曲以外に、アンコールも含め19曲、全部で21曲がうたわれた。
アルバムの中でこっそり光を放っていた名曲や、誰もが口ずさめるほどのヒット曲、彼女にとっての“道標”のような曲――まさに“今井美樹の王道”ともいうべき珠玉のポップスを聴きながら、「すごいなあ!」と思ったのはわたしだけではなかっただろう。
もちろん感動の理由は、曲や演奏の魅力だけではない。昔から、きらめきながら宙に舞い上がっていくような、美しい“ボーカル”が賞賛されてきた彼女だが、その歌がここにきて、せつなさや、よろこびや、勇気や、歌それぞれが根底に持つ“意味の深さ”を運んでくるようになった。
「今回は、これまでとは違う新鮮な気持ちで歌に向きあいたかった。逃げずにがんばってみようと思ったんですよね。“45歳”ということもあるのかもしれない。十分に“大人”じゃなきゃいけない歳なのに、まだまだそこに辿りつけていない感じがあって。歌声もそうで、ようやく今回そこにトライできて“太い何か”が見つかったんです。それが体の中から圧倒的に出てくるようになった。もう歌う心構えが違っているんです。デビューして22年、やっとステージで歌える人になったと思う(笑)」
彼女のそんな言葉が心に残っている。ステージのセンターに立つ、堂々とした今井美樹の“磁力”が、バンドメンバーやスタッフ個々のパワーをたぐり寄せ、大きな大きな力となって、めくるめく音楽の世界に観客をひきこんでいくのである。
誰もが心躍るプレイを見せてくれた。「最高のパフォーマンス!」と、1曲ごとに拍手を送った。しかし中でも、コーラス(というより、もうひとりのボーカリスト)として今井美樹の歌に陰影や彩を加えた川江美奈子(オルガンも担当)の役割は、ことのほか大きかったのではないか。うまくいえないが、1Dを2Dに、2Dを3Dに、3Dを4Dに変化させる“軸”を、彼女が担っているような気もしたほどだ。
今井美樹の心と、川江美奈子の心が、揺らめき、重なり、ときめきながら、ライブという“音楽の旅”を、さらに豊かなものにしてくれるようだった。
今井美樹が、河野圭のピアノ伴奏で「瞳がほほえむから」をうたいはじめる。その清らかな“流れ”に、いつしかほかの音色が加わり、美しいうねりが会場を包みはじめる。優しく心をほぐしてくれる、いわずと知れた名曲がラストナンバー。
演奏を終え、観客にメンバーを紹介し、そのメンバーたちと手をつなぎ、喜びにあふれた表情で高々とその手を上げる。充足感に満ちた、気持ちのいい、健やかな笑顔を浮かべ、名残惜しそうに、彼女はステージを下りていく――。
このDVDの制作をはじめた頃、今井美樹はこんな話をしていた。
「DVDの制作にあたり、ライブの映像をサッと見たとき、“ホント、いいバンドだな!”と思ったんです(笑)。今回のツアー、“バンド”という印象の強いライブだったことは、見ていただいたみなさんにも感じてもらえたと思うんですが、改めて、“こんなにバンドとしての色を放っていたんだ!”と。それが嬉しくてしょうがなかった。ツアー中のMCでも、“私たちホワイト家族”って言ってましたけど(笑)、まさにひとつの家族、チーム、ソウルメイトという感じでしたね」
新しいミュージシャンたちと“家族”のように結びつき、回を重ねるごとに“化学反応”を繰り返し、うたうしあわせをふくらませながら終えた、コンサートツアー。
メンバーひとりひとりの楽しそうな姿や、バンドのサウンドの素晴らしさ。会場の熱気や、光の美しさ。今井美樹の歌のすごさ! さまざまなシーン、最高の記録が、このDVDに収められている。
(文・藤本真)