【東京事変2007.9.26 3rd ALBUM『娯楽(バラエティ)』オフィシャル・インタビュー】
──ソロ、そして、これまでの東京事変は、リスナーのための注釈や説明、意味づけみたいなものが常に付きまとってきたと思うんですけど、今回はそういうものが全て削ぎ落とされて、純粋にやりたい音楽に没入しているような印象を受けました。
椎名 今回に関しては、バンドに私がゲスト参加しているのと同じことだと思うんですけど、バンド・メンバーはそれほどお嬢さん扱いしてくれるわけじゃないし(笑)、こちらもそういうことを求めているわけではないから、いい塩梅だったというか、本職をやっているなって思えましたよね。今回の作品で、曲や詞を提供することはあっても、本来、ドラマやストーリーを提供する職業じゃないってことを1回はっきりさせることが出来たら、今後がやりやすくなるんじゃないですかね。
── 今、バンドにゲスト参加ってことをおっしゃいましたけど、今回はこれまでと異なって、林檎さんがソロ作のプロモーションで不在の間にバンドがリハーサルをしていったそうで。
椎名 誰がリハーサルをやってたとしても、作品を出してしまえば、結局、ああだこうだ言われるわけですから、リハーサルの場に行かないとなると気にはなりますよね。実際、行ってみると、テンポが遅くなってたり、「なんだこりゃ?」って思うこともままありましたけど、曲選びの段階には立ち会っていて、どの曲も他人の曲ながら「好きだな」って思えるものでしたから、楽しみな気持ちの純度は高かったです。
── 曲選びに関しては?
椎名 録った曲は限られていて、その中には歌詞がなかった曲も多かったし、聴いていて、波を感じられるような内容にした方がいいんじゃないかっていう提案を何度かしました。
── その波っていうのは?
椎名 作風の緩急が結構あるので、同じ5人の音しか入っていないにしても、全体で感じさせる大きい波、曲それぞれの小さな波が幾重にもなっていた方が豊かだと思ったし、私はそういうアルバムを聴きたいんですよ。
── レコーディングはどの曲が取っ掛かりになったんですか?
椎名 「メトロ」が一番最初ですね。なんとなくメンバーの満場一致っていう雰囲気があって、今回の始まりのムード、今回のアルバムの特徴を担ってる感じはありました。
── その特徴とは、アルバム・タイトルにもなっている『娯楽(バラエティ)』ということ?
椎名 その時点でアルバム・タイトルを決めて、スタジオに入ったわけじゃないんですけど、新しい方向に向かっているなって思ったんですよね。
刄田 あと、リハの進み方が、「メトロ」のテンポみたいな、自然な感じでもあったし。
── その時点でコンセプトがなかったとすると、1曲に集中しながら、レコーディングを進めていったわけですか?
浮雲 でも、前回のアルバムではメンバー以外のプレイヤーの音も入っていましたけど、今回はバンドの音だけでやるっていう、なんとなくな決まりがあったんで、そうなってくると、1曲1曲を集中しながら録っていっても、統一されたカラーが出るっていう。レコーディングはそういう印象がありましたね。
── シングルの段階で、浮雲くんは「今まで聴いたことのない椎名林檎を聴きたい」ってことを言ってましたけど、それはアルバムにおいても同じ事が言えますか?
浮雲 そうです。それ以外のことは考えずにやりっぱなしでやらせてもらいました。
椎名 だって、浮雲のデモテープって、ワン・コーラス目は誰の物真似、サビは誰の物真似って感じで、すごくいい加減なんですよ(笑)。しかも、すごい音が悪いし。
── 伊澤くんは沢山の曲を持っていかずに決め打ちだったんですよね。
伊澤 そうですね。
椎名 伊澤のデモテープ、歌が入ってないものが多かったよね。
伊澤 そう、キーボードだけで作ってね。
伊澤 スーパーでかかってるイージー・リスニングみたいなやつだ(笑)。
椎名 デモ作りを結構楽しんでたよね。歌メロをキーボードで曲げたり、シンセ・ギターでギター・パートを弾きまくったり。
伊澤 そうですね。楽しんでました(笑)。林檎ちゃんが歌うことを想像しつつ、自分の好みだけを考えて作って、リハで軌道修正をしつつ作っていった感じですよね。
── あと、伊澤くんは早い段階で刄田くんとリハーサルを始めたそうで。
伊澤 誰もやり始めなかったから、刄田くんが個人練習していただけですよ。
刄田 ヒマだったしね(笑)。
伊澤 そう、僕たち2人はヒマだったから、刄田くんが一人でスタジオ入っているんだったら、一緒にやろうよってことになって、1月から西東京在住同士で西東京事変を繰り広げてました(笑)。
── 刄田さんは怪我でドラムが叩けなかった時期もあったと思うんですけど、今回のレコーディングはいかがでした?
刄田 んー、特に自覚はなかったですね(笑)。ドラムに関しては、浮雲くんと伊澤くんが的確な指示をくれたんで、叩きやすかったっていうことはありますけどね。
浮雲 あと、前回は手の故障のせいで、一人だけ作業が後になった伊澤くんが、今回、最初からいたので、その場その場で柔軟に対応して、作品に反映することが出来ましたよね。
伊澤 今回は前作よりも、自分の呼吸に近い音数だと思います。レコーディング期間も今回の方が短かったですしね。
浮雲 前回はメンバーのことをよく知らなかったっていうこともありましたし。
椎名 それって、結構、大きいよね。
浮雲 そう。今は関係性を分かったうえで、心おきなく出来てますから。
── これまでの発言を総合すると、今回は前作で築いた関係性を土台に、曲の鮮度を保った状態で、短期間でレコーディングが完了したわけですね。
椎名 そうですね。なんで、プロになるとこういうレコーディングが難しくなるんだろうとは思っていて。制約のせいなのか、歌詞のせいなのか。
── レコーディングを繰り返していくと、無意識のうちに見えないフォーマットに自分からハマっていってしまうこともあったりしますよね。
椎名 ソロのファースト、セカンドの頃は、普通にそのままやれていたと思うんですけど、そうですね、どこかでハマっていっちゃったのかもしれない。もう、そうやって音楽をやるのは無理なのかもしれないとも思った時期もあったんですけど、それは気のせいだったというか、今回出来ちゃいましたよね。
浮雲 『大人(アダルト)』の時は曲のアレンジがあらかじめ決まっていたんですけど、今回は持っていった曲をみんなで膨らましていったので、そこにはフォーマットがなかったというか、今までと違ったものになるだろうなってことを思いながら、レコーディングしていましたよね。
── 前作は曲で変化していくドラムのパターンがあらかじめ決まっていたそうですが、今回はいかかでした?
刄田 今回も伊澤くんの曲では決まっていたものが多かったので、そういう意味ではやりやすかったですよね。まぁ、でも、今回のレコーディングは前回に比べると圧倒的に楽でしたね。出来上がったアルバムを聴いたら、僕、全然何も考えてないなって思いましたから(笑)
── 考えずにやれるのは、つまり、型にはまらずにドラムが叩けたということですよね?
刄田 僕は予習するのが大好きだし、自分で制約を作っちゃう方なんですけど、このメンバーになってから、予習が意味なくなってきてるんですよ(笑)。浮雲くんの曲なんか、録ってみるまで、いまいちよく分からないし、リハーサルの段階ではギター弾かないことも多いので、そうなるとこちらも予習のしようがないというか(笑)。
浮雲 なんか、俺だけ感じていることかもしれないんですけど、前作では焦燥感を煽られるような、戦いながらレコーディングしているような感じがあったんですけど、今回はすごくゆるかったです。何が原因なのか分からないけれど、今回の雰囲気は良かったですね。
── 前作はメンバーのことを知らなかっただけに音で会話しあう緊張感が出ていたのに対して、今回はメンバーがうち解けたことで安心感に繋がったということもあるかもしれないですね。
浮雲 そうですね。全員納得しているような、一緒に進んでいるような、そんな感じですね。
── ただ、あまりにスムーズな進行だと逆に不安になったりしませんか?
椎名 それはありましたね。ただ、今回はメンバーのセッションっていう形の娯楽っていうことで筋が通っていたから、特に軌道修正をすることもなく。
── むしろ、気持ちいいところを追求していけば、いい作品に繋がっていくっていう確信があったということですか?
椎名 う〜ん、というより、もっと刹那的なところで自分がウケるかどうか、笑えるかどうかっていうところの判断だった気はしますけどね。だから、責任を避けるわけじゃなく、感じる前に録り終えてしまったっていう。ただ、みんな、長年楽器を弾いてきたわけで、後から出来上がったものを聴き直して、「ああ、大丈夫だったね」って確認する、みたいな。
── 伊澤くん、浮雲くんの曲に歌詞を付ける作業に関してはいかがですか?
椎名 伊澤と浮雲の曲は、彼らがやってるバンドの持ち曲も含まれていて、歌詞にいかにも男の 子って言う表現も多くあって。私の声向けに書き変えるにしても、自分の曲では曲と歌詞をあまりに自然な形で同時に書いてきたから、今回は歌詞がすごく難しかったです。
── そういう状況を楽しみながら歌詞を書いていたところはありました?
椎名 もう、難航しまくって、なかったことにしたいとも思ったし、そういう状況をスリリングに感じるほどの余裕はまだないですね。
── 林檎さんの歌に関してはいかがですか?
伊澤 いや、すげえなと思いましたね。こちらから、何か言うことはないというか、言うのもおこがましいっていう。
浮雲 きれいに自分の色に染めてくれますからね。知らない人が聴いたら、本人が曲を作ったんじゃないかって思うくらいだし、彼女の歌を聴けば、誰が作ったかっていうことは全く問題じゃなくなると思うんですよ。
── ただし、このアルバムは椎名林檎とバックバンドという図式ではなく、大きな塊の中の一要素としてのヴォーカルであり、それに拮抗するバンド・サウンドである点が今までになかった風景であるように思います。
椎名 『大人(アダルト)』の時から考えていたこととしては、個人の表現や反応ってことじゃなく、集団っぽさを詞や声の質に表したいと思っていて、今回、ようやくそれが出来るとなったら、第1期東京事変、第2期東京事変みたいに言われるのもどうかと思ったので、だったら、バンド名も変えちゃおうっていう意見も出て、いったんは決心したんです。
── そういう気持ちも分からなくはないですけど。
椎名 良かれと思ってやってしまいましたけど、あんなに親切にしなければ良かったって思いますね。「りんごのうた」で独りの活動に区切りをつけたあと、いきなりモードを切り替えれば良かった。徐々に変化していく過程を見せていくことで、『親切』どころか余計ややこしく見えたのではないかしら。でも、このアルバムでようやくスタート地点に立てたような、そんな気分ですね。
── 今回、バンド結成時の青写真がいよいよ形になったわけですけど、しかし、この変化はかなり過激だとも思うんです。というのも、作品を重ねたアーティストは音楽がフォーマット化されて、音楽というより商品になっていく傾向にあると思うし、さらに付け加えれば、近年は商品的すぎる音楽が氾濫したことで、リスナーの音楽離れが進行していますよね。林檎さんが今回のアルバムで踏み出した一歩は、そういう傾向に抗って、血の通った音楽を取り戻そうという動きであるように思えるんですけど。
椎名 そもそも、今のメンバーにオファーした私の気持ちからして、そういうことですし、私にとってはそういう意味合いがありますね。
浮雲 僕らは以前と変わりませんけどね(笑)。林檎さんには申し訳ないですけど、そういう状況があるだけに、逆に僕らの無責任な感じがいいんじゃないかって思うんですよ。
伊澤 そのうえでJ-POPのギリギリのラインに行けたらいいなって思いますね。んですよ。
椎名 私は子供の頃から、テレビを付けてもやってないような音楽ばっかり好きだったから、それはしょうがないというか、反骨的な気持ちはずっとありますね。ただ、そうは言っても、リスナーの方にはただただ楽しんで聴いて頂ければいいなと思います。
浮雲 そうだね。このアルバムは飽きないと思うし。
伊澤 スルメみたいなアルバムって感じかな。よく噛んで味わって欲しいです。
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